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東京高等裁判所 平成2年(行ケ)75号 判決

一 請求の原因一及び二(特許庁における手続の経緯及び審決の理由の要点)が原告主張のとおりであることは、当事者間に争いがない。

二 取消事由についての判断

1 取消事由1について

(一) 本願意匠が別紙第一に示すとおりの構成からなる意匠であり、意匠に係る物品が「建築用板材の連結具」であること及び引用意匠に係る物品が「面構造材の連結具」であり、両意匠に係る物品の使用目的が同じであつて物品が一致していることは当事者間に争いがない。

(二) 原告は、引用意匠は、あくまでも、昭和五四年一〇月二三日に公開された特許庁発行の公開実用新案公報所載(実用新案出願公開昭五四―一五二五二六号)(引用公報)に係る「第7図の図示B及び13よりなる意匠」(別紙第二)であり、その図面には面板(図示Bの捨板)と連結板(図示13の受部材)とが分離して図示されていて、図面からは結合状態が不明であることから、面板と連結板とが一体に結合した状態を想定したうえで、審決が、本願意匠と引用意匠との共通点として、「上面中央に細長矩形の板状とした連結板を縦長状に連結した構成」と「連結板の凹溝の下面と面板の凸部の上面とを接合させて構成した態様」とを認定したのは誤りであると主張するので、まず、この点について判断する。

審決添付の別紙第二の図示部分が、本出願前に頒布された「面構造材における連続構造」の考案に係る公開実用新案公報(引用公報)に掲載された第7図に相当するものであり、そこには、面板(図示Bの捨板)と連結板(図示13の受部材)とが分離して図示されているが、この両者が結合されるものであることは原告も争わないところである。しかして、意匠法三条一項二号にいう「刊行物に記載された意匠」とは、必ずしも意匠に係る物品の全体の構成態様が一個の図面に示されていなければならないものではなく、例えば、本件のごとく公開実用新案公報に記載された一つの図面である分解図が引用意匠である場合、その図面は同公報中の他の記載を前提として作成されているのであるから、同公報中のこれに関連する他の記載を参酌しなければ、その図面に示された物品の機能だけでなく形状も知り得ないのが通常であり、したがつて、その分解図における各構成部分が一体に結合されて所期の物品となるものであることが当該刊行物におけるその図面に関する説明及び各構成部分の機能ないし目的についての説明から明らかであつて、一体に図示された場合と視覚的にみて同じ程度に、結合されて一体となつた全体の構成態様が認識されるときには、結合された状態の全体としての構成態様を引用意匠として把握すべきである。

成立に争いのない甲第四号証(引用公報)及び乙第一号証の一、二(右引用公報添付の第2図ないし第6図)によれば、「面構造材における連続構造」の考案に係る公開実用新案公報の図面の簡単な説明欄には「第7図は面構造材の連結構造の分解斜視図である。図中、Aは面構造材、Bは捨板、Cは化粧板、Dは下地板、13は受部材、15、15は受片」との説明があり、また、その実用新案登録請求の範囲には「下地材側に取り付ける捨板の上下方向に沿つて両側外方に受氷を延出させてなる受部材を取付けることにより、該受片の下面と捨板と上面の間に受部を形成する」(右の「受氷」は「受片」の誤記であると認められる。)との記載があることが認められるから、第7図(別紙第二)は、本来一体に結合されたところの「面構造材における連結構造」を図示することに代えて、考案に係る明細書添付の図面である性質上、その連結構造を明らかにするために、捨板B(面板)を中心としてその中央の凸部(11)に凹溝(14)を取り付ける受部材(13)(連結板)及び化粧板Cをその下に表し、捨板Bと受部材(13)とを接合(連結板の凹溝の下面と面板の凸部の上面とを接合させて構成した態様)した間に挿入して継ぎ合わせる左右一対の面構造材Aを左右に表したものであり、分解斜視図の通常の図法により連結部材の全体を斜視図により表したものであることが十分に認識理解できる。したがつて、審決が、面構造材の連結具に係る意匠として第7図にみられる捨板Bと受部材(13)とを前記のとおり結合した連結具の構成形態を認定したうえで、<1>ないし<3>の共通点(ただし、共通点<3>のうち、「連結板につき、幅は面板の約三分の一とし、長さは面板よりもやや短いもの」とした点はのぞく)を認定したことには何ら誤りはない。したがつて、取消事由1についての原告の主張は失当である。

3 取消事由2について

別紙第一の平面図に基づいて本願意匠における面板に対する連結板の関係をみると、連結板の幅は、面板の幅の約四分の一であり、連結板の長さが短い(面板の長さの約一〇分の七)ことから、面板の上下にかなりの空隙があり、連結板の長さは、面板の両短辺側の互いに逆向きに設けられた側面視鈎状に折曲した係合部及び係止部をのぞく中央の側面視略へ字状に屈折した部分(以下「中央部分」という。)の長さの一〇分の七であるのに対し、別紙第二の図面に基づいて面板(捨板B)に連結板(受部材13)を結合してなる引用意匠における面板と連結板との関係をみると、連結板の幅は、面板に幅の約二分の一であり、連結板の長さは、本願意匠の面板中央部分に相応する面板の両短辺側の互いに逆向きに設けられた側面視鈎状に折曲した係合部及び係止部をのぞく中央の側面視略へ字状に屈折した部分(別紙第二の捨板Bの部材8の屈折部分から下部の点線部分まで)(以下「中央部分」という。)に略等しいことが認められる。したがつて、審決は、共通点<3>の一部として「連結板につき、幅は面板の約三分の一とし、長さは面板よりもやや短いもの」とした認定は明らかに誤りというべきである。そして、本願意匠においては、面板と連結板の右のような関係から、長さ方向では、連結板が面板中央部分全部を覆うことなく、その上下には空隙が存することになり、また幅方向では、面板上の中央凸部と平行して等間隔に設けられた左右二本の畝状凸部がいずれも、連結板により覆われることなく、連結板を面板上に設置しても面板上の畝状凸部はすべて観察することができる。その結果、本願意匠では連結板に対して面板の存在感が強調される関係にある。これに対して、引用意匠においては、面板と連結板の右のような関係から、長さ方向では、連結板が面板の中央部分の略全部を覆うことになつて、上下に空隙はみられず、また、幅方向では面板上の中央凸部と平行して等間隔に設けられた左右二本の畝状凸部のうちの中央よりの畝状凸部を覆うことになり、連結板を面板上に設置することにより面板上の畝状凸部は左右各一本しか観察することができない。その結果、引用意匠では、面板に対して連結板の存在感が強調される関係にある。

この点における両意匠の差異は、審決が共通点として類否判断の基礎とした事項(連結板の幅及び長さの点はのぞく)に基づいて認められるとした特徴的態様に吸収されるものとはいえず、看取者に顕著に異なる美的印象として充分に認識され得る程度の構成態様の差異とみるのが相当である。したがつて、この点において本願意匠と引用意匠とは類似する意匠とはいえない。本願意匠が意匠法三条一項三号に規定する意匠に該当するとした審決の判断は誤りであるから、違法として取消しを免れない。

三 以上のとおりであるから、その主張の点に認定判断を誤つた違法があることを理由に、審決の取消しを求める原告の本訴請求は、理由があるものとして、これを認容する。

〔編注1〕本件における請求原因は左のとおりである。

一 特許庁における手続の経緯

原告は、昭和五七年二月九日意匠に係る物品を「建築用板材の連結具」とする別紙第一のとおりの意匠(以下「本願意匠」という。)について登録意匠第五七二一四七号を本意匠とする類似意匠登録出願(昭和五七年意匠登録願第四九三四号)をし、同年三月二五日図面を訂正する手続補正をしたが、昭和五九年六月二七日拒絶査定を受けたので、同年一〇月八日これを不服として審判の請求をした。特許庁は、右の請求を昭和五九年審判第一八八四三号事件として審理し、平成二年一月一一日「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をした。

二 審決の理由の要点

1 本願意匠は、登録意匠第五七二一四七号を本意匠とした昭和五七年二月九日の類似意匠の意匠登録出願であり、本願意匠は、願書の記載及び願書添付の図面によれば、別紙第一に示すとおりとしたものであり、その意匠に係る物品は、「建築用板材の連結具」である。

2 これに対し、原査定における拒絶の理由に引用した意匠(以下「引用意匠」という。)は、昭和五四年一〇月二三日に公開された特許庁発行の公開実用新案公報所載(実用新案出願公開昭五四―一五二五二六号)(以下「引用公報」という。)に係る第7図の図示B及び13よりなる意匠であつて、別紙第二に示すとおりとしたものであり、その意匠に係る物品は、面構造材の連結具と認められる。

3 そこで、本願意匠と引用意匠とを対比すると、

(一) 両意匠に係る物品は同じ使用目的により用いられるものであつて、物品が一致するものと認められ、

(二) 両意匠は、以下に示す共通点及び相違点を有するものと認められる。

まず、共通点としては、<1>全体の形状につき、平面視略縦長矩形の板状とし、側面視略へ字状に屈折させた面板の両短辺側を互いに逆向きの側面視鈎状に折曲して係合部及び係止部を設け、上面中央に細長矩形の板状とした連結板を縦長状に連結して構成したものとし、<2>面板の上面につき、中央に幅広の畝状凸部を上下端にわたり縦断して設け、その左右両側に中央凸部と平行して畝状凸部を各二本ずつ等間隔に設けたものとし、<3>連結板につき、幅は面板の約三分の一とし、長さは面板よりもやや短いものとし、中央に凹溝を縦断して設け、全体を面板の屈曲部分に沿つて側面視へ字状に屈折させ、連結板の凹溝の下面と面板の凸部の上面とを接合させて構成した態様において共通するものである。

(三) 次に、相違点としては、<1>面板の左右両側に設けた畝状凸部の断面形状につき、本願意匠では、各畝を小円弧状に形成しているのに対し、引用意匠では、各畝を台形状に形成している点、<2>面板の左右側端につき、本願意匠では、内側向きの小円弧状に湾曲して形成しているのに対して、引用意匠では、平坦状としている点、<3>連結板の中央凹溝の左右の部分につき、本願意匠では、小円弧状断面形状の小凹溝を中央凹溝寄りに形成しているのに対し、引用意匠では、平坦状としている点において相違するものである。

(四) 右に述べた両意匠の共通点及び相違点を総合し、両意匠の類否について全体として考察すると、各共通点及び相違点については、次のように認められる。

(五) まず、共通点に関しては、共通点<1>に述べた全体の概略の構成態様が共通するとともに、面板の上面の一部及び連結板上面の一部の態様並びに面板と連結板の結合態様において共通するものであり、これらの共通点は互いに相俟つて両意匠の構成上不可欠の骨格的態様をなすとともに、この種物品に係る意匠としては特徴的態様を呈しているものと認められる。なお、当審の調査によると、本出願前において本願意匠と前記共通点<1>に述べた全体の構造態様が共通する公知の意匠は引用意匠の他に発見することができないものであり、引用意匠は該考案の公開の時点において新規性を有していたものと認められる。

(六) 次に、相違点に関しては、相違点<1>に述べた畝状凸部の断面形状の差異については、この部分を注視すればその差異を視認することができないものではないとしても、本願意匠のこの部分の態様は、この種物品に係る意匠としてさほど顕著な特徴が認められるものではなく、全体の構成態様から見れば部分的差異であるとともに引用意匠の有する全体の特徴的態様に吸収包含される程度の相違と認められ、相違点<3>に述べた連結板の小凹溝の有無については、全体の構成態様に比して細部であつて、この部分が類否の判断に影響を及ぼす程の特徴的態様とは到底認められない相違であり、相違点<2>に述べた面板の左右側端の態様の差異については、極めて微細な部分の差異にすぎず見る者の注意を何ら引かない部分の相違と認められる。また、請求人(原告)は板面の底面の相違に関しても述べているが、その相違の大部分は平面にも現れるものであるから、あえてふれるまでもないものである。

(七) してみれば、両意匠は、物品が一致するものであり、両意匠の全体及び各部の構成態様における共通点が相俟つて特徴的態様を呈しているものであつて、本願意匠の各部の態様における相違点は、叙上のようにいずれも引用意匠の特徴的態様に吸収されるか、または、極めて軽微な差異にすぎないために見る者の注意を引く程の差異とは認められないから、叙上の相違点は共通点を凌駕し得ず、両意匠は類似するものと認められる。

4 したがつて、本願意匠は、意匠法三条一項三号に規定する意匠に該当し、意匠登録を受けることができないものである。

〔編注2〕本件における別紙は左のとおりである。

別紙第一 本願の意匠

意匠に係る物品 建築用板材の連結具

説明      左側面図は右側面図と対称のため省略する。

<省略>

別紙第二 引用の意匠

意匠に係る物品 面構造材

説明      図中、Aは面構造材、Bは捨板、Cは化粧版、Dは下地板、13は受部材、15、15は受片、16、16は受部。

<省略>

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